
これは、何でしょう。
正解は、ヴァイオリンの弦。G線。ルーペ+iPhoneXRのカメラで撮影した。
有名な「G線上のアリア」はこれが震えて演奏されてるということになる。
英語だとAir on the G Strings.
今回はそんなヴァイオリンの起源から現在に至るまでの歴史を奏法の発展を中心に振り返る。
日本とヴァイオリンとの関係についても、知っている範囲で少し記した。
起源〜
●16世紀前半、北イタリアのクレモナで、アンドレア・アマティ(1511年以前 – 1580年以前)によって、世界で初めてヴァイオリンが作られる。彼はかの有名なアントニウス・ストラディヴァリウス(1664−1737前後)の師匠の祖父である。
言わずもがな4億とも10億とも言われる最高級ヴァイオリン「ストラディバリウス」がその構造をさらに結実させたのである。
その作りの元となったとされる楽器は、アラビアのラバーブとされる。
これが「Rebec」という楽器に変わり、ヨーロッパで広まる。
また、「中世Fiddle(Vielle)」もヴァイオリンのもととなった楽器の一つである。
レオナルド・ダ・ヴィンチの「岩窟の聖母(1486 年完成)」の脇にそれっぽいものを弾いている絵がある。ダ・ヴィンチの工房で作られたもので、納品時に一緒にくっつけられたものだという。この絵に描かれているのは「Vielle」である、とロンドンのナショナル・ギャラリーはいっている。当時呼称は様々あったらしく、現在は中世フィドルとざっくり述べるようである。
上記はヴァイオリンに近いかたちで構えているが、
ポップ古楽さんの動画では二胡のように縦に構えている。
つまりいろんなバージョンがあるのである。
これらが縦弾きと横引き、すなわち「ヴァイオリン属」と「ヴィオラ・ダ・ガンバ属」にわかれていく。「ヴァイオリン属」が現在の「ヴァイオリン」「ヴィオラ」「チェロ」へ、「ヴィオラ・ダ・ガンバ属」が「コントラバス」へ変化し、現在生き残っているというわけだ。
ヴィオール属の「ヴァイオリンポジション」はさしずめ「トレブル・ガンバ」であろう。ポップ古楽さんにその演奏があった。
●オケ中でヴァイオリンを初めて用いた候補の一人がルカ・マレンツィオで、1591年くらいだと言われていたり、「独奏ヴァイオリンが編成に入った曲」の最初期がGiovanni Paolo Cima :「Sonata a due Violino e Violone(1610)」だったりする。厳密にこれだ、とは言えないのだが、モンテヴェルディが活躍しだした時期と被っている。つまりルネサンスの終わり、バロックの誕生とヴァイオリンの本格的な登場の時期は被っているのだ。
●様々な奏法の確立
・ボーイング時に弓の先か根本か
・ピッチカート(pizz)
・重音
これらの奏法はビアージョ・マリーニ(1597〜1665)ファリーナ(C・Farina 〜1637)等の演奏家たちによって17世紀中頃に確立。とされているが、モンテヴェルディが最初だとする資料もあり、ここでは断言しないでおく。
B.マリーニはヴァイオリニストでもあったらしく、ソロ曲はまさにヴァイオリンソロ、といった印象。この手の曲としては最古の部類であろう。
日本におけるヴァイオリン
日本人とヴァイオリンの関わりというのはもっとずっと後だと思いがちだが、それは勘違いである。
実は日本はこのころ鎖国以前であり、この時期だけヴァイオリンが堂々と文化として入ってきた。團伊玖磨の著書に載っていたのだが、当時の宣教師いわく、日本人にヴァイオリンを教えると非常に上達がはやく、久留米あたりに行ったときには60人くらいの子どもたちがヴァイオリンの合奏で迎えてくれたが、それはまるで天使のごとき素晴らしい演奏だったという。それだけヴァイオリンを弾く人がかつて日本にいたのである。鎖国・キリシタン禁止令によって彼らも姿を消していくわけだが、仮にそのままヴァイオリンが日本に根付いていたらいかなる文化が醸成されていたのかということに思いを馳せずにはいられない。
バロック期
バロック音楽の特徴は絶対王政を抜いては語れない。王の権力が強く、取り巻きの貴族も贅沢三昧で、その派閥争いも激しい。お抱えの奏者がすごいということを競うようになる。しぜん、超絶技巧器楽奏者が大量に出現する。そのこととヴァイオリンの発達は密接に関係してくる。
当たり前のようにヴァイオリンを中心とした曲が書かれていて、それの技術はどんどん高まっていた。「コンチェルト」はその技術を示すための楽曲であり、いわゆるポリフォニーを用いるものではなく、とにかくたくさん音を動き回って派手なのである。
●17世紀後半に独奏ソナタ形式、17世紀末にコレッリ(1653- 1713) がコンチェルトグロッソ、独奏コンチェルト等を確立。コンチェルト・グロッソとは、オーケストラを小さい群と大きい群に分けて演奏する形式のことである。下記は有名なクリスマス協奏曲であるが、1:48〜あたりから、ヴァイオリン2人とチェロ1人だけが動き続け、たまにフルオケが入ってくる、という状況が続く。
ちなみに、コレッリは意外とヴァイオリンが下手で、曲中にも3rdポジションあたりまでしか出てこない。

●ヴァイオリン・コンチェルトも誕生。
一人のヴァイオリン奏者対オケ全員という構図を見せる形式である。最初のものはトレッリ(Giuseppe Torelli, 1658- 1709)が作曲したとされる。
そしてバロック時代の終わりに、ひっそりと作曲されたのがこの曲である。
J.S.バッハの作品は、当時の人間にはさしたる影響は与えなかった。この曲がヴァイオリン独奏曲で最も有名な曲の1つと評されようとは想像だにしなかっただろう。この作曲家が評価されるまでも、100年の時を要した。
古典
産業革命によって絶対王政は崩壊。中産階級が幅を効かせ、大量の人間が音楽ホールに押し寄せる。最早貴族のたしなみである音楽ではなくなったのである。
そのためホールはどんどん拡大し、必然的にヴァイオリンも大きい音が必要になる。
そこで、弦の長さを長くして、張力を上げるため、ネック・指板を長く改造。これがVnの歴史上唯一の改造である。
音量問題は、前述したヴィオール属を抑えて主流になったきっかけでもある。ヴィオール属は音が繊細で小さいのである。フランスを除くヨーロッパでヴィオール属は急激に姿を消すこととなる。
弦楽四重奏の大きな発展もこの時代である。
宗教的な色合いがなくなり、個人というものに注目したため、押し付けがましい色合いは減衰し、素朴なメロディ、神ではなく個人として感じる喜怒哀楽、みたいなものが聴こえてくるようになる。モーツァルトやベートーヴェンなどの曲を挙げていけばきりがないがとりあえずクロイツェル・ソナタを置いておく。
・コル・レーニョ・バットゥート:木の部分で叩く(モーツァルトヴァイオリン協奏曲5番にも出てくる、意外と古い奏法。col legno battuto)
・コル・レーニョ・トラット:木の部分で弾く(弓と合わせて)
こういった奏法は弓が傷つくので奏者は嫌うので、新しく安い弓を買ってもらうことも。
19世紀以降
●ニコロ・パガニーニ(1782〜1840):悪魔に魂を売った、と言われるほど破壊的な超絶技巧奏者であったといい、「俺はピアノのパガニーニになる」と決意したというフランツ・リストをはじめ多くの同世代の心を打ったという。セルフプロデュース等も行った、今のロックミュージシャン等にも通ずる先駆者である。
「カプリス」のテーマなどは有名であろう。
・左手でピッチカート
・ハーモニクス
等の奏法を開発したと言われている。
ディビッド・ギャレットというヴァイオリニストが、なんと主演・監督・音楽を全部やっちゃったというとんでもない映画「パガニーニ」がある。これを観ればなんとなく感じはつかめるであろう。手元の差し替え無しでヴァイオリンを弾いている映画というだけでも珍しい。
そして、他にも様々な奏法がこのあと開発されていくことになる。
・バルトークピチカート(バルトークが発明したものではない)いわゆるスラップのような奏法。「マーラー・交響曲第7番」等
・ハーモニクス、ポルタメント(もっと以前から?)、ピッチカートとグリッサンドの合体技
・(ビブラート):常時ビブラートをかける習慣は20世紀になってから広まったもので、それ以前は装飾的につけることが多かった。
・サルタート:弓を弦の上で弾ませる
・スピカート:高速で連続で弾ませる
・オンザブリッジ:駒の上を演奏
・ビハインドザブリッジ:駒の向こう側を演奏
→タンゴでは「チチャーラ」という。
・ミュート奏法:ミュートして演奏スコラダトゥーラ、微分音、弦にクリップ等
フランクのヴァイオリン・ソナタ。
サラサーテのツィゴイネルワイゼンは誰でも聴いたことがあると思うが、本人による録音があるのだという。録音黎明期のこういった音源が手軽に聴けるというのは大変いい時代になったものである。高速パッセージが本当にチュルチュルっとすごく早い。
20世紀のヴァイオリン独奏曲
今更「現代曲」という気はないが、いわゆる「現代曲」。
情報の激しくインフレ化した現代においての存在意義を問われる。ポピュラーとの融合、個人主義との融合など、ありとあらゆる文化との結びつきが試行されたような気すらする。
奏法としては、特殊な弓使ったり、ボディ叩いたり、サーキュラーボウイング(ぐるぐる回しながらボウイングする方法)だったり、譜面的なことで言えば最高音指定してあったりなど。
武満徹「悲歌」(1966)
ルチアーノ・ベリオ:セクエンツァVIII(1976)
独奏曲シリーズで有名。
ブライアン・ファーニホウ「見えない色彩」(1999)
非常に複雑な作風で知られるファーニホウ。
単純な技巧的にはパガニーニも卒倒するレベルで難しい曲で、現代でも弾ける人は世界にごくわずかしかいないだろう。日本人だと成田達輝さん(上記動画)がその貴重な人材の一人である。
ざっと現代まで奏法と曲を振り返ったが、上記はほんの一部。ヴァイオリンの歴史は語り尽くすにはときがいくらあっても足りない。
おまけ
●弦別の音域(これ以上の音域は指板がないので演奏不可能。)
楽器によって個体差はあるだろうがおよそ。

behind the bridgeにおける音程(だいたいの音程)
指板の向こう側を演奏するという演奏法だがうちのヴァイオリンでだいたいの音程をとってみた。

その後、現代
エレキバイオリンが開発されたり、ジミー・ヘンドリックスに則ってヴァイオリンを破壊するという奏法が確立されたりしたが、基本的には楽器は変化をせず現代に至る。管楽器がぽんぽん姿を変えてるのに比べて、弦楽器の変化の少なさは注目に値する。
この並びでは出しにくいけど、迫田さんの演奏が素晴らしいのであえて拙作を紹介。2020年に作曲された作品である。こんな感じで、新作はいまも作られ続けている。
鵺(2020)
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